「EVバスが一気に増えたら、街全体が停電するのでは?」
そんな不安の声を、最近よく耳にするようになりました。
脱炭素の流れを背景に、路線バスの電動化は全国で加速していますが、その一方で電力インフラへの影響を心配する声が出るのも自然なことです。
結論から言うと、EVバスが増えただけで即座に街が停電する可能性は低いと考えられます。
ただし、「何も考えずに導入・運用した場合」はリスクがゼロとは言えません。
カギとなるのが、電力の使い方を制御する“賢い運用”です。
この記事では、EVバス大量導入が停電につながると言われる理由を整理したうえで、なぜ適切な運用を行えば問題になりにくいのか、そしてリスク回避に欠かせない仕組みについて分かりやすく解説します。
- なぜ「EVバスが増えると停電する」と言われるのか
- EVバス1台あたりの電力消費はどれくらい?
- カギを握るのがEMS(エネルギーマネジメントシステム)
- 実は法律面でも「賢い運用」が求められている
- EVバス普及で本当に必要なのは「インフラ×運用」のセット
なぜ「EVバスが増えると停電する」と言われるのか

画像引用元:ECナビ
EVバスの話題でよく混同されるのが、「電気の量」と「電気の勢い」です。
ここを整理しないと、停電リスクを正しく判断できません。
kWとkWhの違いがポイント
電力を考える際に重要なのが、次の2つの単位です。
- kW(キロワット):その瞬間に必要な電力の大きさ
- kWh(キロワットアワー):一定時間で使う電気の総量
よく使われる例えでは、
- kW=蛇口から出る水の勢い
- kWh=バケツにたまる水の量
と考えると分かりやすいでしょう。
EVバスの停電リスクで問題になりやすいのは、電力量(kWh)よりも電力(kW)です。
EVバス1台あたりの電力消費はどれくらい?
例えば、関東自動車が導入を進めているEVバスとして知られる、いすゞの「エルガEV」を例に考えてみましょう。
エルガEVの車載バッテリー容量は約242kWh。
ただし、実際の運行ではバッテリーを空になるまで使うわけではありません。
仮に1日の運行で消費する電力量が150kWhだった場合、
- 50kWの急速充電器
- 充電時間は約3時間
という計算になります。
1台だけなら、特別に大きな問題には見えません。
EVバスが大量導入された場合の電力量(kWh)
では、EVバスが大量に導入された場合はどうでしょうか。
宇都宮市を例に考えると、市全体の1日あたりの電力使用量は約891万kWhとされています。
ここで、仮にEVバスが158台すべて電動化され、合計で約3万kWhを消費したとしても、
- 市全体の電力量に占める割合は約0.3%
にすぎません。
この数字を見る限り、電力量だけを理由に「街が停電する」と考えるのは現実的ではないと言えます。
本当に注意すべきなのは「同時に使う電力(kW)」
問題になりやすいのは、同じ時間帯に一斉に充電した場合です。
仮に、
- EVバス158台
- すべてが50kW充電器で同時充電
となると、必要な電力は
- 50kW × 158台 = 約7,900kW
になります。
一方、宇都宮市の業務用高圧電力の契約規模は約27万kW。
割合にすると約3%ですが、冬場など電力需給が逼迫している状況では、この数%が無視できない負荷になる可能性も否定できません。
つまり、
- 電力量(kWh)→ 問題になりにくい
- 同時電力(kW)→ 運用次第でリスクが生じる
という構図です。
停電リスクを左右するのは「同時充電台数」
ここで重要なのが、EVバス1台につき充電器1基が常に必要とは限らないという点です。
実際の路線バス運行では、
- 帰庫時間は車両ごとに異なる
- 昼間に運行していない時間帯がある
- 翌朝までに満充電になればよい
といった条件があります。
つまり、同時に何台を充電するかを制御できれば、必要な電力は大きく下げられるのです。
カギを握るのがEMS(エネルギーマネジメントシステム)
EVバスの停電リスク回避で欠かせないのが、EMS(エネルギーマネジメントシステム)です。
EMSとは何をする仕組み?
EMSは、電気の使用状況をデータで把握し、最適な使い方を制御する仕組みです。
EVバスの場合、次のような情報を組み合わせて充電を管理します。
- バスごとのバッテリー残量
- 翌日の運行スケジュール
- 帰庫時刻や中休み時間
- 電力需要が高い・低い時間帯
これにより、
- 帰庫直後に一斉充電しない
- 深夜や昼間の空き時間に分散充電
- 必要最小限の出力で効率よく充電
といった運用が可能になります。
EMSがないと起きやすい問題
EMSを導入せず、単純に「帰ってきた順に充電」すると、
- 夜間に充電が集中
- 同時充電台数が増加
- 一時的に大きな電力負荷が発生
という状況になりやすくなります。
これが「EVバスが増えると停電する」と言われる背景です。
実は法律面でも「賢い運用」が求められている
EVバスの導入とEMSの組み合わせは、技術的な話だけではありません。
法制度の面でも、エネルギー管理は重要視されています。
一定規模以上の車両を保有するバス事業者は、「省エネ法」に基づき、非化石エネルギー車両の導入計画やエネルギー使用状況の管理・報告が求められています。
- 車両導入だけでは不十分
- 電力の使い方まで含めた計画が必要
という点で、EMSは今後さらに重要性を増していくと考えられます。
EVバス普及で本当に必要なのは「インフラ×運用」のセット
EVバスの導入は、単に車両を入れ替える話ではありません。
- 車両性能
- 充電設備
- 電力契約
- EMSによる運用制御
これらをセットで考えることが、停電リスクを避けながら普及を進める前提条件になります。
特に、全国的にEVバスが増えていく今後は、
- 地域単位での電力需給
- 再生可能エネルギーとの連携
- 需要をずらす運用ノウハウ
がますます重要になっていくでしょう。
まとめ|EVバスが増えても「賢く使えば」街は停電しない
EVバスの大量導入によって、街がすぐに停電する可能性は高くありません。
ただし、同時充電を前提とした運用を続ければ、電力インフラに負荷がかかるリスクは確かに存在します。
重要なのは、
- 電力量(kWh)と電力(kW)を区別する
- 同時充電台数を抑える
- EMSで充電タイミングを最適化する
という「賢い運用」を前提に導入を進めることです。
EVバスは、正しく運用すれば環境負荷を下げ、地域交通を持続可能にする強力な手段になります。
今後の普及の成否は、車両そのものよりも“電気の使い方をどう設計するか”にかかっていると言えるでしょう。
最後までお読みいただきありがとうございました!
